散歩道<2723>

                     私の視点・危機の時代・多極化世界を生きる(3)                  (1)〜(2)続く

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 こうした多極世界では日本はどう生きていくのか。GDPで中国に追い抜かれるとはいえ、日本はドイツや英仏より巨大な経済大国であり続ける。それだけではない。平和で洗練された文化と社会をもつ日本の重要性は、日本国民が経済万能の発想から開放される21世紀にこそ輝きを放つだろう。
 日本国民は、21世紀世界の極の一つとなるアジアの中で最も早く、深く、広く、欧米の近代文明を学び取り、それを駆使し、同時に東アジア文明のアイデンティティーを保持して生きていた。帝国主義という近代欧米の負の文明まで学びとり、敗戦という形でその対価を支払った。
 こうした経験に裏打ちされた日本の文化・文明の力、つまり「知の力」は巨大なものである。多くの日本国民はその巨大さを意識していない。しかし、世界の大半を占める非欧米、特にアジアの諸国民には、その巨大さが良く見える。私は国際社会でのつきあいで、そのことを強く感じてきた。  現在の闇は長く続くかもしれない。だが闇の向こうには、人権、民主主義といった近代文明を踏まえながら欧米の覇権下にはない世界がほのみえる。今は夜明け後の世界で力を発揮するためじっと耐えてさらなる知の力を身につけるべき時、そう見える。


'08.12.29.朝日新聞・東京大教授・大沼 保昭氏