散歩道<2633>
経済危機の行方・モラルなき拝金主義 背景に(1) (1)〜(3)続く
世界一の大国であり、文化や経済が最も爛熟(らんじゅく)しているといわれる米国で、大異変が起きた。歴史的に非常に重要な出来事であり、第2次大戦後の世界の一つの大きな転機を示している。
これまで米国は経済や金融の世界を牛耳ってきた。しかし、先端を行く米国の経済あるいは社会が、実は内部にこれだけの病因を抱えていた。証券の名において世界中に病原菌をばらまき、発病に至って大騒ぎになったわけだが、この病原体は米国のなかにまだ潜在しているだろう。米国の経済のあり方、国家のあり方について、歴史が厳正な批判を要求している。
1929年の大恐慌、85年のブラザ合意、そして双子の赤字と、米国はさまざまな経験を経てきた。米国の市民は借金は返さなければいけないものだと小さい頃から教えられているはずだが、政府当局は双子の赤字など意に介してこなかったようにも見える。少なくとも是正を長い間怠ってきている。サブプライムローン問題を見ても、監視を怠ったという一面がこの事態につながったところがある。
ブッシュ政権が、その時流に乗ってきた面は否めない。イラク戦争はその象徴だ。冷静な理性よりも、時流に乗る感情が主導した。戦争を始めた時、米国の大部分の人たちは、あの9・11テロに対する憤慨もあって戦争を支持した。しかし今では反対論も多くなっている。時間がたつにつれて理性を回復し、今回の大統領選を通じて、米国が本来もっているはずの倫理観、倫理性が戻ってきた。
米国は時々人道的な主張を前面に出すのだが、政治の現実を見れば独善が優越してきた。今回の経済異変は、そうした米国のあり方自体をも問い直すことになり、実際、米国の国際的評価の低落は、米国自身において反省されてきていると思う。
これからどう進むべきか。何を改めていくべきなのか。世界中でこの難問を解いていかなくてはならない。
まず言えることは、富にはモラルが付着していなければならないということだ。今回の異変は、極論すればモラルない拝金主義から起きている。情報社会であり、コンピューターによる世界ネットワークの時代であることを考えれば、人類の堕落を防ぐにはモラルというものがますます不可避のものとなる。さもなければ、コンピューターのもつ速さや、原子力その他による兵器の発達などにもかんがみて、ちょっとした人間の過失や思惑、悪意によって世界的危機に至ることが今後ないとは言えない。政治、経済、社会、あらゆる面において、モラルがもっと深く食い込んでこなければ、人類自体が危うい。そういう時代に入りつつある。
'08,11.8.朝日新聞・元首相・中曽根 康弘氏
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