散歩道<2429>              

                            経済気象台(344)貧困再生産

 1990年代初めにバブルが崩壊して以後、「失われた10年*1」の中で日本経済社会には、様々な悪(あ)しき現象が出現した。その代表的なのが、格差*2社会あるいは「勝ち組」「負け組み」といわれる貧富の差の拡大であろう。特に派遣、パートなど非正規雇用から生み出された低賃金労働者の定着は、ワーキングプアで象徴されるような貧困階層を形成した。これはひとえに、バブル以後の長引く経済低迷の中で、国際的な競争で生き残りをかけた企業が賃金コストを引き下げるために、非正規雇用を増やしそれを固定化した結果である。年功序列、終身雇用といった安定的な雇用・賃金制度はもはや過去の話となってしまった。
 いまや「下流社会」といわれる低所得層が、社会の底辺層に滞留している。問題はこの下流社会グループが、より上位の所得層にはい上がれないことである。上下の所得層の間で移動がなく、貧富の差を残したまま社会の構成員が固定化される現象は決して望ましいものではない。貧困は世代間で受け継がれ、再生産されているのだ。
 50年代そして60年代の高度成長を支えた大きな要因は、社会的に恵まれない低所得層の「アップウオードムービング」つまり上方志向であった。低学歴、低所得の親ほど、子供だけには学歴をつけさせ社会的に認めさせようと、歯を食いしばってがんばり、その願いをかなえたものだ。日本の代表的な大企業のホンダ、ソニーなどの創始者は戦後、町工場経営者からはい上がり、艱難
(かんなん)辛苦のすえ今日の地位をきずいてきた。この社会的な階層間の動きが消滅したことが将来、日本経済の活力をそぎ、社会全体の沈滞をもたらすことは明らかである。

 '08.6.20.朝日新聞

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