散歩道<2177>
時の肖像・キュービズム100年(4) (1)〜(4)続く
「時の古層」に宿る原初の美
先週、縄文文化で知られる青森市の三内丸山遺跡を久しぶりに訪ねた。目や口が丸くうがたれた土偶がある。地の闇の中で幾千年もの間、小さな口を開き続けてきたのかと思うと、切ない思いがわいてくる。盛り土の断面も展示されている。表層の下にいくつもの時代の層が折り重なっている。この地の層を見ていると、時間にも層があるように思われてきた。降り積もった時間が重なった時の層、いわば「時層」が、見る者を一気に古の時へ誘う。そして、時代や地域、民族といった枠を超越した、普遍的な原初の美というものの存在を思わせる。ピカソもまた、古の仮面や彫像から、原初の呼び声を聞いたのかも知れない。ピカソの偉業は絵画史を塗り替える一方で、古来の優れたものを一段と際立たせたようにも思われる。ピカソの後の現在も、おそらく未来においても、レオナルドやミケランジェロの美は色あせないだろう。後代の革命が古典を際立たせるのは、美術の世界に限らないようだ。ビートルズやマイルス・ディビスの未踏の偉業は、バッハやモーツアルトを際立たせ、ジョィスの革命的な文学は、ホメロスやシェクスピアを輝かせている。原初の美を備え持った芸術は、時に磨かれて輝きはしても,すり減ることがないのか。
○ ○ 三内丸山遺跡の道には、、無数のドングリが落ちていた。木々が、次の代に命をつなごうとしている。人間もまた、類としては、原初の時から一つながりになって、ここまで歩んできた。秋色の深まる縄文の丘を歩みつつ、分厚い「時層」の底に宿る原初の美を、足元に感じていた。
参考図書:ペンローズ・「ピカソ」、ワルノー「洗濯船」、マルロー「黒耀石の頭」、「イサム・ノグチエッセーと会話」、アシュトン「イサム・ノグチ」
'07.10.22.朝日新聞・論説顧問・高橋 郁男氏
関連記事:散歩道<74>鳴かない蝉、<192>象形文字・備考・1、<246>面白い話(22)・日本編・昔々の話、<328>長谷川櫂様・古典について、<検>絵画展、<検>時間、
2