散歩道<1910>
けいざいノート・格差問題の深層(4) (1)〜(4)続く
生産と闘争の技術が混在・再配分に新しい意義も
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格差論議など最近の経済をめぐる論争を提起しているのは、市場で闘争技術が使われることの害悪の問題といえるのではないだろうか。だとすると、生産技術だけを仮定した経済学の議論では説得力のある反論にはならない。闘争技術を分析対象に加えた新しい経済学を作る必要があるかもしれない。政治の意思決定や行政プロセスを経済学に分析する「公共選択論」という分野は以前からあった。そこでは政治や行政の場での闘争技術が経済学的に分析されている。しかし、市場経済活動の広い範囲で闘争技術を分析する経済学はまだない。格差論争自体を一種の闘争活動とみることもできる。過去10年の企業のリストラによって生産水準が下がった人々にとっては、現在の格差論争は政治的闘争だ。ハーシュライファーによれば、持たざるものにとっては生産活動にいそしむより、政治的な闘争に参加するほうが合理的な選択肢になる。自分で生産できるものはたかが知れているが、闘争によって政府の再配分政策を変化させ、利益を手に入れることができればずっと割が良い。かくして、格差論争に多大な時間とエネルギーと才能が費消される。こうした分析は、再配分政策に新しい意義を与えるかもしれない。再配分政策は、一般に、効率を犠牲にして公平性を高める政策だといわれる。しかし、競争のダークサイドを考慮するならば、再配分で格差への不満を解消することは、格差をめぐる政治的闘争に資源が費消されることを防ぐ。それは、社会全体の効率を高めるうえで望ましいのかも知れない。
'07.8.18.朝日新聞・経済産業研究所上席研究員・小林慶一朗氏
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