散歩道<1762>
経済気象台(163)・ヤングからパルミサートへ
米国は80年代に、半導体などハード製品の日本からの怒涛のような乱入に、危機感を強めた。それを機会に広く日本研究が行われ、米国のあるべき姿について盛んに議論された。その代表的なものが、85年に米ヒューレット・パッカードのヤング氏をトップとする米産業競争力委員会が出した「ヤングリポート」である。要は、ソフトをハードの「上位」と位置ずけたイノベーション(技術革新)が必要であるという提言だった。以来約20年間、米国発の「ハードよりソフト重視」という流れは、どんどん強まった。ソフト研究、開発を強めた企業こそが世界をリードし、現在に至っている。かってハードで欧米へのキャッチアップ戦略の成功に酔いしれた日本は、日本対策として出現した新たな情報化社会を、再び、キャッチアップしようとした。過去10数年の日本の混迷は、その自己矛盾に端を発しているといえる。だが、この情報革命にも変化が見え始めた。インド、中国、ロシアの台頭である。なかでもインドは、以前のハードに置ける日本と同様、ソフトにおいて、米国の下請けを脱して一つの脅威になろうとしている。米国は再び危機感を募らせ、新しい社会を欲した。その報告書が04年に出た。まとめの中心となった米IBMのトップの名を付けた「パルミサート」だ。人、金、社会システム全般にわたり、グローバルな立場で「新しい結合、仕組み」の構築を求めた提言だ。縦割りでなく、広い分野を横断するような基礎研究の充実を掲げ人材育成の重要性を指摘している。新しい結合が新しい活力を生む。日本を見ると、そんな結合はおろか、産業、学術など様々な部門で縦割りがのこるなど、古い結合も健在だ。わが国のイノベーションはいまだ霧のかなたのようだ。
'07.6.16.朝日新聞