散歩道<1407>
夕陽妄語(3) ・2006年11月 (1)〜(3)続く
米国はすでに議会の変化が起った。議会外の大衆のブッシュ政権支持は、衆知のように激減した。知識層には初めから批判的意見が多かった。小泉首相が無条件にイラク戦争を支持したのは、「米国支持」ではなく、「時の米国政府の政策の支持」にすぎない。しかるに米国では、政府が変ることもあり、政府が変れば政策が変わることもある。今後イラク戦争批判の言論は活発になるだろう。そういう言論がイラク戦争を無条件に支持した外国の政府に手厳しくなっても不思議ではない。いわんや民間の言論においてをや。東京裁判を取り仕切ったのは米国である。東京裁判の全面否定に近い「大東亜戦争」肯定論の盛んな国と米国とが「価値観を共有」し、「一心同体である」と主張しても、それを受け入れる米国人は少ないだろう。米国人だけでなく、一般に日本国の外でそれを受け入れる人は、恐らく稀(まれ)である。国際的孤立は深まる。どうすればよいか。「愛国心」は政治的に利用せず、おのずから起るに任せればよい。1831年にフランスに亡命したハイネは、「昔僕には美しい祖国があった」とうたったことがある。そこには何があったか。高い樫(かし)の樹と、やさしいスミレの花があり、信じがたいほど美しいドイツ語があったという詩である。
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われわれも安倍首相と共に「美しい国」をつくろう。信州のカラ松の林と、京都の古い町並みを保存し、人麻呂や芭蕉が残した日本語*1を美しく磨こう。そのとき愛はおのずから起るだろう。そして尊大な、尊大妄想的な、殺伐で同時に卑屈なナショナリズムを捨てればよい。そうすれば憲法を改める必要もなくなるだろう。
'06.11.27.朝日新聞・評論家・加藤周一氏
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