散歩道<1383>

                     思潮21・「時代の空気」について(1)             (1)〜(4)続く               

 私にとって、故郷札幌の藻岩山は最高の山である。その麓(ふもと)に卒業した高校があり、青春の思い出と重なるからである。人間は自らの生まれ育ちに由来する思い入れを引きずる。夏目漱石*1が明治44年に行なった講演会「現代日本の開化」で面白いことを言っている。「外国人に対しておれの国には富士山があるというようなバカは今日はあまりいないようだが、戦後以後一等国になったんだという高慢な声は随所に聞こえるようである」。大人になるということは、相対的に物事が見えてくるということで、世界を知る中で自らの思い入れを客観視する視界を身につけていかねばならない。私自身も、国内外を訪れたり、住んだりする機会が増えるにつれ、世界には様々な魅力ある山が存在することを知った。それでも、啄木の「ふるさとの山に向かいて 言うことなし ふるさとの山はありがたきかな」ではないが、私にとって藻岩山は圧倒的に大切なのである。

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 時代の空気がおかしい。9・11後の世界が「テロとの戦い」を掲げて逆上するアメリカの表情を投影するかのごとく、全般的に「自国利害中心主義」の潮流の中にある。リーダーたるべき国々が諸々
(もろもろ)の利害や対立を束ねて制御する中心理念を喪失しているだけに、それぞれの自己主張の中で国際秩序は液状化しているかに見える。この九月、我々が目撃した非同盟諸国会議とパレスチナ解放機構加盟での事実上「米国の一国主義を批判する宣言」や国連総会で相次いだ「反米演説」が象徴しているごとく、世界のムードは険悪とさえいえる。
 

'06.10.2.朝日新聞・(財)日本総合研究所会長・寺島実郎氏

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