散歩道<1348>

                       経済気象台(73)所得格差

 自民党総裁選の争点の一つである。「格差問題」の行く方はどうだろうか。所得格差は大きく広がり、多くの働き手のやる気を疎外しているが、背景には大きな経済構造の変化がある。その第一はグロバール化による途上国との競争激化の中で、労務費を大幅に引き下げ、リストラも余儀なくされた、という流れである。それもバブル崩壊後10年の経済停滞と重なったことが大きい。また、高度情報社会化によるネット取引の増加という新しい動きが始まり、少数の高所得経営者が出現する一方、この分野の発展が一層、雇用節約をもたらすという要因もあった。更に公共投資や地方交付金によって地方格差を調整する財政の働きも縮小した。そう考えると、格差縮小と言うだけではうまくゆくまい。むしろ格差はそれぞれの自己革新のために与えられた「条件」と積極的に受け止め、やる気の低下や不満の増大の根を絶つ方が建設的であろう。同時にその循環を整える為に、以前の日本、また私たちが格差の少ない社会をなぜ志向したのか。その動機を振り返ることも必要だろう。第2次大戦後の日本は復興から成長の過程で、経営者と社員の給与格差が小さかった。その前提には、経営者の側に会社の命運を決めるのは「資本」ではなく「従業員との相互信頼」であるという信条があった。又、都市と農村の格差調整という政策には、それぞれの地域が国との連帯感を持ち、個性を発揮することによって、国全体を活性化する願いがあった。格差問題の対応においては、経営も国も、人と人として大切に受け止め、相互信頼の絆(きずな)を深めることによって、それぞれの個性が発揮されるようにかかわることがその基本ではないか。そのためには「格差」にかぎらず、人が体験する試練をどう受け止め、超えるのか、その知恵をもっと求め、共有してゆく必要がある。

'06.9.5.朝日新聞

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