散歩道<1006>

                    美術館の使命・効率より相互文化理解を     

 生き残りに知恵を絞る民間美術館、独立行政法人や民間委託が進む国公立美術館。日本有数の美術館である岡山県倉敷市の大原美術館の大原謙一郎理事長は美術館の使命を守る方策をさぐる。美術館を訪れた人は作品に接して心躍る喜びを感じたり、ほっと和むひと時を味わったりします。すべての来館者に豊かな憩いの場を提供するのは美術館の基本的使命です。また、若いアーチストや研究者を支援し、子供たちに語りかけることも重要な使命でしょう。しかし、今の時代の美術館は、そういった個人的なレベルにとどまらず、もっと重く多用な使命を負っていると感じています。世界は狭くなり、それぞれの国、民族、文明の距離も縮まりました。互いに理解し経緯をもてば、世界はすばらしいものになるでしょう。しかし、敵意と無理解がはびこる時、世界は摩擦と悲惨の温床となる。それはいやというほど実感させられています。このような状況に対して倉敷から異文化の相互理解への強いメッセージを発し続けているつもりです。個個の企画展だけでなく、日本の歴史と伝統がある町並みを舞台に日本、中国、欧米、エジプトなど世界各地域の古代から21世紀までの美術の精華を展示するのは個人のレベルを超えた、美術館の重要な使命の一つだと考えます。しかし、独自の使命を追求する民間美術館は運営に苦労しています。大原美術館の入館者は瀬戸大橋が開通した88年度の約125万人をピークに減りはじめ、年間40万人をきりました。経費節減はもちろん、スタッフによるギャラリーツアや高階秀爾館長*1の美術講座、コンサート、親子向け美術イベントなどを実施して多くの人に美術館に来ていただきたいと努力しています。最近の入館者数が少し戻り、ミュージアムショップの売上が増えてきたのは嬉しい傾向です。さらに広く社会の支援を期待しています。公益法人改革法案が国会で審議中ですが、非営利で公共的な活動をする美術館が資金集めを出来るよう、寄付をしたら税の控除を認める*2税制改正を強く望んでいます。海外では企業、個人の寄付が大きな比重を占める美術館も多いのです。一方、国公立美術館の方でも予算の制約や市場原理の導入などで本来の使命を薄めざるを得ないことがあるようです。効率性の追求が芸術や文化を衰退させないか、危惧しています。

'06.5.2.朝日新聞  大原美術館理事長 大原謙一郎

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個人的な経験では、'63(s39年)社内旅行でこの美術館で本当の絵に接し感激したのが始めてです。集合の時間に間に合わず、館内呼び出しをされたことを思い出す。