散歩道<1004>

                  思潮21・「格差社会」再考(2)焦点は敗者の対策・弱まる復活の仕組み         (1)〜(3)続

 自立心を尊び、リスクにかけることを厭わず(いと)競争をこよなく愛し、努力する人に報いる精神が強いので、勝者の高い所得を容認する。アメリカでは社長の報酬は平社員の100倍以上というすごさである。競争が激しいことは生産性を高め、努力する人の高い所得は勤労意欲を高める、というメリットを信じていることが背景にある。これは経済効率を高めるのに役立つのである。しかし、競争には敗者が必ず生まれる、あるいは競争に最初から参加できない人がいる、という事実への対応策を巡って、人々の間で意見が別れる。ここで敗者を貧困者という言葉で代表させるとわかりやすいのでこれを述べよう。OECD(経済協力開発機構)によると、平均的家計所得の半分以下の所得で定義される相対的貧困率は、アメリカが17.1%で世界の先進国で最高である。ちなみに日本は15.3%でアメリカに近く、OECD平均は10.2%福祉国家のデンマークは4.3%で非常に低い。日本では自分で食べていけない所得の人に、政府が生活保護支給を施す。生活保護基準以下の所得しかない人(それを絶対的貧困とよぶ)の比率は96年で7.5%、99年で9.1%、02年で10.8%と増加の傾向にある。ここで生活保護基準は、3級地の1と呼ばれる小都市を基準にした数字による。ちなみに、生活保護を受けている世帯数も、95年が60万世帯だったのが、05年12月において105万世帯という激増である。このように日本の貧困、すなわち敗者数が多い現状、あるいは貧困の格差が大きい事のデメリットは何だろうか。第1に、敗者がますます勤労意欲を失うかもしれない。第2に、勝者への嫉妬が高じて犯罪者が増加して社会が不安になる。第3に、多くの食べていけない人に生活保護支給すれば、一般国民の税負担は大きくなる。第4に、高所得者の贅沢な消費は天然資源の無駄使いになる。第5に、豪邸に住み華麗な消費に走るお金持ちと、みすぼらしい家に住み日日の食に困る貧困者の並存は、人間社会にふさわしいのか、という倫理的な問いかけもある。

'06.5.1.朝日新聞  京都大学教授・橘木俊詔氏

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